2024.12.25GOALZ

記憶が紡ぐ懐かしい風景

N氏(93歳)との出会いは約2年半前でした。認知症が徐々に進行し独居生活が難しくなる中、ご家族は同居や施設入所、デイサービスなどを試みましたが、N氏が強く拒否されたため独居生活が続くことに。その結果、不安が大きくなり、昼夜問わずご家族に何度もお電話をかけるなど、不穏な状態が続いていました。このような状況から精神面でのフォローを目的に「teon(訪問看護)」のご利用が始まりました。

始めてお会いした頃のN氏は、30分ほどで怪訝そうなお顔をされ、「しんどい、しんどい」と帰宅を促される状況でした。半年ほど散歩や入浴介助を通じて関りを深めていく中で次第に介入中は落ち着いた時間も増え、出来る事と出来ない事が明確になっていきました。出来ることを維持し、出来ない事の手助けをする看護・リハビリへとつなげていきました。現在では週に3回teonをご利用いただいており「もう帰るのか?さみしいなぁ」とおっしゃってくださるようになりました。
信頼関係が構築されていく中で、N氏の口から「昔はいろんなとこに散歩がてら行ったなぁ、働いてた舞子小学校の方に行きたいけどこんなんじゃいけない」といった思い出話を耳にするようになりました。

N氏は垂水区の小学校で教員や校長をされていた頃の記憶が徐々に蘇っているようでした。変化に弱く、不安になりやすい性格から、当初はGOALZの提案をためらっていました。しかしご本人から「あんたと行けるなら行きたい、一緒にいくか?」とおっしゃっていただき、息子さんご夫婦も「父は楽しみがなく、不安な生活を淡々と送っている気がします」とお話されたため、この提案を進めることにしました。

今回のGOALZは【約70年前に教員として赴任した舞子小学校を散歩しよう】という内容でした。舞子小学校に問い合わせたところ、校長先生や教頭先生のご協力をいただき、散歩の舞台が校舎内に変更されることに――。校舎内では、校長室での会話をきっかけに記憶が次々に蘇り、宿直室や校舎の様々な場所の空気を懐かしむN氏の姿が印象的でした。さらに普段は名前も思い出せなかった奥様のお名前を、なんとこの小学校で出会われたという奥様のエピソードも共に語ってくださいました。

これまで20分が限界だった外出が、今回のGOALZでは終始笑顔で話題も絶えず、「帰りたい」や「しんどい」といった言葉もなく過ごされました。帰宅後の訪問看護中には、「あと何年生きられるやろか、今度は生まれ育った稲美町に行ってみようかな」と目をキラキラと輝かせて話されました。

その後、舞子小学校での散歩をきっかけに、N氏の生活にわくわく感が生まれました。普段はお薬を飲み忘れたり、食事を摂ったか忘れたりすることもある認知症の症状が見られましたが、「今日はたくさん歩いたからしっかり食べないと。お薬も忘れずに……」と、自らの健康を意識するような発言が増えたのです。
思い出や希望が心身の変化につながることを「GOALZ」を通じて実感しました。これは私にとっても、大きなやりがいを感じさせてくれる取り組みとなりました。